環境汚染の代表物質である塩素化化合物の内、地下水や土壌の代表的汚染物質として塩素化エテン類であるテトラクロロエテンおよびトリクロロエテンが挙げられます。これらの物質は、きわめて難分解性であり、また汚染も低濃度(数ppm)で広範囲に及んでいるのが特徴です。環境基準値(例えばトリクロロエテンでは30
ppbに設定)をクリアするためには、汚染部位に生息している微生物を活性化させ、汚染物質を無害化するのが有効な手法の一つとなっています。
効率的なテトラクロロエテンの嫌気的分解を図るためには、嫌気微生物の生態系をより好適に制御する必要があります。そこで本研究では、テトラクロロエテンを嫌気的に分解する集積培養物を用いて、どのような微生物が生息しているのか、分解遺伝子の解析、各種微生物群の挙動解析を実施しています。
現在、私達は大きく分けて4つの研究テーマを進めています。共通しているのは、微生物の生態系を理解し活用することです。4つテーマは「微生物燃料電池」、「微生物生態系の成立機構」、「塩素化エテン類の嫌気分解」そして「陸水系の浄化と保全」に関するものです。 以下にその概略を説明します。
微生物は、自らのエネルギーを獲得する過程(呼吸)で、電子とプロトンを発生させます。それらを上手く負極と正極で反応させることにより、電気を発生させることができます。しかも、有機性の廃棄物を処理しながらクリーンな電気エネルギーを直接生産できるため、次世代型のクリーンエネルギー生産技術と捉えることもできます。しかし、この分野研究は世界的に見てもまだ始まったばかりであり、実用化へは20年〜30年かかるともいわれており、解決すべき諸々の課題があります。
私達は、微生物燃料電池の実用化に向けて、高発電型微生物燃料電池の構築と負極槽内に形成される微生物生態系の解析に関する研究に着手しています。
この研究に心惹かれる理由は、上述した廃棄物からのエネルギー生産ということに加えて、学術的な面からは、電極という人工の電子受容体が存在する場において、どのような微生物が電気生産に関わり、また微生物の生態系がどのように構築されていくのか、という点です。
静岡大学浜松キャンパス(工学部)の近くには、佐鳴湖と呼ばれる日本でも有数の富栄養化が進んだ湖があります。
水をきれいにしたい、というのが私の研究の出発点だったことと、実際の現場に研究成果を還元したい、あるいはこれまでの解析技術を現場を相手に繰り広げてみたい・・・という思いで取り組んでいます。
現在は、硝化・脱窒に関わる微生物群の構造と機能について解析を進めています。
微生物生態系を用いて何かを行う場合(例えば、農業、発酵食品類、バイオレメディエーション、廃水処理など)、どうすれば、目的の機能を最大限にかつ安定して発揮できるのかが重要な事項となります。それでは、微生物生態系はどのような仕組みで成立しているのか、ということに関してはよく分かっていないのが現状です。
現在、私達はモデル微生物生態系として、フェノールを唯一の炭素源とする微生物生態系を構築し、その生態系の変遷、安定、あるいは崩壊について、混合培養系の供試菌株の挙動解析や菌株間の相互作用について、生理学的および分子生物学的手法あるいは数理生物学的手法を用いて解析しています。微生物生態系のネットワーク構造やそれに伴う系としての安定性・不安定性、あるいは微生物の多様性の重要性などについて、実証しながら理解を深めていきたいと考えています。